夜の雨

こないだの夜、雨が降っていた時の話。
時刻は十一時。

冬の雨は、当然寒い。
でもなんだか外に出てその雨を味わいたくなった。
あまり躊躇せず、
一人で夜の散歩に出る事にした。

旦那は暖かい部屋で、ぬくぬく過ごすのが好き。(至極真っ当)
私は、たまに一人で、現実味を味わいたくなる性分。(残念異常)

川沿いの道はうす暗く、
街灯の灯りだけが、
ぽつりぽつりと仄かにオレンジ色だ。

その光のところと
反射する路面にだけ、
雨粒が見える。

傘をさして、
一人でどんどん歩いて行く。
川の水面に落ちる雨を見ながら。
誰もいない世界を行く。


世界が凍るように冷たいので、
生きているという感じがする。
リアリティ。


目的はない。
ただ川沿いを歩いて行く。
雨の中を一人で歩く。
それだけが唯一の目的だ。


ふと見ると、
対岸のマンションに灯りがいくつか灯っている。
そこにも誰かが生きている。
暗闇の中のオレンジ色の光。


こんな夜の雨の中を、
好き好んで歩いている奴がいるなんて、
その灯りの下にいる人は、きっと
思いつきもしないだろう。



いつもの場所に行き着く。
道路から階段が出ていて、川の目前まで行ける場所。


お、先客がいた。


絶滅危惧種のヘラサギが一羽。


別に人気のスポットじゃないから、
ここには大抵、私かこいつしかいない。

 


ヘラサギも私に気付いてるだろうか。
そろそろ友達になれるかもしれない。

 


冬の夜の雨が降り注ぐ川の中に
一匹で佇む白いツルみたいな鳥は、
なかなかにシュールで見応えがある。


お互い寒いね、とか思わない。
ただ漠然とそこにいるだけ。
ただ立って川を見るだけ。
感想は、無い。
多分ヘラサギも同じだと思う。


いつもは白い身体が、
雨の夜はちょっと街灯の光が反射して、
オレンジ色っぽいんだな。
私は一人でそのヘラサギをじっと見る。



しとしとしとしと
雨の降る音。


ヘラサギは、何を見ているのだろう。
いつも一人だ。
群れない。
共感する。
誰の敵でも味方でもない。
おそらくは。


しとしとしとしと


そろそろ帰らなくちゃ。
時刻は十一時半だ。


冷たい黒とオレンジの雨の中を、
満足して帰って行く。


あいつ、最後の一匹とかだったらどうしよう。