アリス・マンロー

アリス・マンローの本を借りて読んでいる。

彼女の短編小説は、数々の賞を受賞し、

あまりに絶賛されているので、

その書評を読むだけで

「いい物を読んだ」気になってしまう。

まだ読んでいないのに。

 

いくつかの短編を読み終えた感想はこうだ。

 

彼女の話の中には、

一風変わった人々、、、一般に

「気が狂った」と思われるような人間が出て来る。

彼らの手記や言葉は、普通に暮らしている人間とは違う。

理解できないようなことを言う。

 

今読んでいる

「小説のように」という短編集の最初の話

「次元」では、

ささいなことで夫婦喧嘩をして、

妻が家を初めて飛び出した数時間の間に、

夫が三人の子供達を絞殺してしまう。

夫は精神疾患だとして、精神病院に入れられる。

突然全てを失った妻は、ホテルで掃除婦として働きながら

数回、収容されている夫を訪問する。

 

その時夫が話す内容が、

完全に「向こう側に行ってしまっている」ような内容だ。

自分が殺してしまった子供達は、

別の次元で成長していて、会えるのだそうだ。

妻は、其の事について何も言及せず、

話も唐突なバス事故の場面で終わる。

 

あるいは「深い穴」という話。

家族でピクニックに行く。

長男が穴に落ちてしまう。

両足を骨折するものの、なんとか父親が助け出す。

全員頭が良く、優秀な一家なのだが、

長男と父親はそりが合わず、

学校も卒業しないまま突然出て行ってしまった。

数年後、テレビの家事のニュースで偶然人助けをしているところを

妹が発見し、探し出す。

其の頃には父親も亡くなっていたのだが、

母親は単身会いに行く。

長男は不思議な人たちと共同生活を営んでいた。

宗教に入ってしまったようなもので、

また「あっち側にいっちゃってる」発言だ。

母親は、これはもう理解し合えないと諦める。

 

アリス・マンローはその「あっち側」の人たちの思考を

完全に把握できているなあ、と思う。

そうでなければ、そういった物は書けないと思う。

そして「あっち側」つまりは「狂ってしまった人」たちを

「普通の人の普通の目線」から書いていて、

否定するでもなく受け入れるでもなく淡々と書いているから

普通一般には避けがちな「狂った目線」を

読み手も冷静に見られるのだと思う。

 

狂った人々達は、案外周りにいるものだ。

そして、皆どう理解していいか分からないのだ。

どうしてそういう思考なのか。

 

「あっち側」世界の人間の考えを

少し分かる事が出来る本だなあ、と思った。

完全に理解する事はできなくても

「確かにこう思う人間が、この世界に実際にいるのだ」と思う。

 

どうやってこんな本を書けるのだろう、と思う作家がまた増えた。

まだ読み終わっていないが、決して裏切られない作品群だ。

(私にとっての”裏切り”とは見え透いたストーリー展開、

予想通りの結末の事である。)