vampire

岩井俊二の新作、vampire。

映画館で見るチャンスを逃していたので、
昨日家で一人で見た。

岩井俊二作品を見るのは大学生以来。
そうそう、綺麗な中に、こういう余りにも無慈悲で残酷な物を
描いているんだった。

でもやっぱり彼の映画の全体的なトーンが好きだ。
色調、雰囲気、空気感。
特に色調かな。

トーンが好き、って思うのって珍しいなあ。
なんかこの映画の何が好きなのかうまく説明出来ないなあと思って
考えたら、トーンだった。

雨上がりで、何もかも綺麗に見えるような。
全体的にぼやけたグレイッシュトーンだとは思うんだけど。
ある種、世界が洗われる感じ。

話は、割と悲惨です。
現代の吸血鬼を描いてる。
(私は実は血が苦手なので、思わず目を伏せるシーンも多く、
フラフラしていた。)

主人公は高校の教師をしている。
血を吸う為に、自殺サイトの自殺志願者と直接会い、
自分も自殺希望とか、自殺を食い止める為に自殺者の血を研究してるとか、様々に装って、最終的に血を頂く。

映画見てたら、リアルだから、本当にこうやって生き延びてる
吸血鬼がいるんじゃないかと思って思わず調べちゃったけど、
まあ検索で出てくるわけはなかった(笑)

いたら、そりゃうまく隠すよなあ。

また、見事だと思うのが、
さりげなく入る「何気ない事」のリアルさ。

例えば、冒頭のシーンで自殺志願者の女の子を主人公が車に載せて、
廃工場に連れて行くまでに、いろいろ会話をする。

コンビニに立ち寄り、マフィンを買うが、
「まずい」と言って女の子は窓から放り投げて捨てる。
しょうがないから近辺にあったタイ料理レストランに連れて行く。
主人公は店に入りたく無い。
かと言ってテイクアウトは嫌だという少女と喧嘩になる。
なんだかんだ言って、少女が車に焼きそばみたいな物を
持って帰る時、「近くに虫がいたから」と言って
生きたムカデみたいな生き物を葉っぱに載せて、主人公サイモンに渡す。

私はどうも、話の本筋からちょっと寄り道した
一見意味不明な部分に心惹かれるみたい。

多分、世界を注意深く観察している人程、
そういう描き方をするのではあるまいか。

世界をちゃんと見ないでストーリーを構築する人は、
一切の無駄を省く。蛇足だ、と思って。

その削った部分にこそリアリティがあると思うなあ。
「あれの意味はなんだったのかな」と思って、
心に残るもの。


岩井さんの世界はやっぱいいな。

暗いけど、押し付けがましくなくて。

たまに見たくなるけど、近くのレンタルショップに全然置いてないのが悔やまれる。

(なんでしょうもない邦画、同じの五本も置いてたりするの...?)

 

オープニングのタイトルやキャストの名前の出方も、良かった。

 

(たまに、その最初のその部分だけで「よし、このあとどういう展開になろうとも100点!」

という文字の出方というものがある。)