忘れ物2014

最近あまり物を忘れる事がないなあ感心感心と思っていたら、
(単に外出が減っているだけだな)
久々にやってしまった。

電車内で音楽に気を取られて、
ドア付近に引っ掛けていた日傘がないのに気づいたのは、
恵比寿駅で改札を抜け、地上までの階段を登っている時だ。

結構気に入ってる傘だったので、
急いで改札に戻る。
地下鉄の改札のベン・スティラーみたいなおじさんに、
何故か超ギロっと睨まれた。
こ、怖い...。

ベンは無愛想ながらも(愛想無いってレベルじゃなくて、怖いんだけどさあ)
忘れ物の際の駅事務室を教えてくれてそこに向かう。

事務室には2人いて、なんか市原隼人みたいな若い兄ちゃんと
壮年のロマンスグレーのおじさまだ。

どういう傘をどこに忘れたのか、市原に聞かれる。
さっきなくしたばかりで、結構正確に細かく伝えた。
市原は「おそらく現在霞が関辺りを通過中の電車の中でしょう、
電話して確認してみます」との事だ。

忙しいのに仕事を増やしてすまない、市原...!
と心の中で謝りつつ、事務室の丸椅子でしばし待機を命じられ、従う。

暇だ...キョロキョロと、つい習性の観察をしてしまう。

この隣の空間は、泥酔の人間が寝るところか...。
市原もおじさまも普段人間のろくでもない部分と
轢死体などを見慣れているのだろうか。
恵比寿、多いって言うからな。

火事でもないのによく消防車が停まってるらしい...。
大変やな...。

などなど思っていると、
電話のコール音が事務室に鳴り響く。(そこそこ広い部屋である。)

その瞬間、二人とも受話器に手を延ばすが、
市原がロマンスグレーに向かって「あざーっす!」と言って、
電話をパッと取る。

そん時、びびったね私は。
つまり、ロマンスグレーが電話に手を延ばした事に対して、
市原は労いの言葉をかけているわけだ。
「自分が取るべき電話に、手を延ばして頂いてありがとうございます。
しかし、ここは拙僧が電話を取らせて頂きます」という意味で。
サムライジャパン...!

このやりとりわずか一秒以下。
す、すげえ...俺にゃあ無理だわ。

で、内心ほげぇとか思っていたのだけど、
市原が当りをつけた霞が関付近にはどうやら傘はなかったそうだ。
市原に謝られる。
いやいや、君は悪くない。

で、そういう場合の連絡先が書かれたチラシを渡される。
はい、自分で電話かけます。

事務室を出る時、別な女性が入ってきた。
彼女は携帯を落としたらしい。
市原は、あらゆる応対に慣れている。

ベン・スティラーは、私が改札出る時もギロっと睨んでいた。
まあ、ああ見えていい奴だったりするんだよな...。


で、この話は長いんだが、まだ続きがある。

数日後、市原の言う連絡先に電話をかけた。
同日、同時刻の似たような傘の落し物は7件あるそうだ。
運賃は出すから、上野の遺失物センターまで直接見に来て下さいと言う。

運賃を出してくれるらしい、と旦那に話したら
「それは今時ホワイト企業だな」と言っていた。
うん、確かにそう思う。貰えれば...(意味深)。

天気の良い日曜日、上野に向かい、市原の地図通りその事務室に行くと、
今度はここではずらっと大勢のおじさんたちが働いていた。
忘れ物をしている人もぞくぞく来る。
盛況盛況、という感じ。ダメ同士の集い...!

日傘は多いから、直接確かめて下さい、と言われ奥の部屋に通される。
職員室っぽい事務室のおじさん達の椅子の後ろをくぐり抜けて行くと、
その先に学校の図書室にあるような無骨な鉄の本棚があり、
何百本もの傘がぎゅうぎゅうに水平に刺さってて柄だけずらっとはみ出てる。

それらに一本一本、手書きで収得場所が書かれた白い紙タグがついている。

私の落とした傘の柄にそっくりの、ベージュで籐の編み込みみたいなのも
何本も突き出ていて、なるほどこれは本人に見せるべきだな、と意味がわかった。
あ、これ似てる、と思って引っこ抜くと、全然違う傘。

似た傘って多いんだなあ。

でも何本か引っ張り出してたら、あった!私の傘。
これこれ〜とちょっと感動。

タグを見たら、全く知らない駅。
小竹向原だったかな、私が行った事ない場所にはるばる旅をして来たのね。
私が乗っていた路線と、全く違う線だったので謎な点も多いが...、

まあ絶対これなので、見つかってよかった。

 

めでたしめでたし。

と思いきや、
しかし、なんだか妙に損をした気持ちになった出来事が。

行きがけ、上野までっていつもJRを使うので
メトロでなくJRを使ったら運賃は帰ってこなかった。
「そりゃあそうだろう」と旦那に言われる。うぐぐ...。

帰りも、帰りの分をその遺失物の係りのおじさんが
手書きで切符を書いてくれるのだけど、これまたついJRを使ってしまった。
そしたら、その紙は使えなかった。
(よくわかんなかったから乗るときちゃんとJR上野駅の駅員さんに聞いたのに...
降車駅で「これメトロ用じゃん!」って怒られた。ぐすん。)



市原に事務室の丸椅子で待機するように言われた時間考えたこと。
身の回りの落としそうな物に発信機つけたいところだけど、
あまり現実的じゃ無いよなあと思い、閃きました。

写真撮っとこう。
そしたらどんな物を落としたのか聞かれた時に確実!
ナイス・アイディア( ̄▽ ̄)

まあ、落とさないのが1番なのは、
知ってはいるんですよ。
落とさない人はわからないだろうけど...。

 

柳美里著

「まちあわせ」の表紙にイラストが使われました。

(発売:2016.11.8)

 

よろしくお願い致します!