無題

先週の日曜日、私は偽名を使って、汐留にある高級ホテル、
コンラッド東京の35階にあるスイートルームに泊まっていた。

72㎡。
テレビもトイレも二個ずつ(風呂のテレビも入れると3つ)。
風呂にはゴム製のおもちゃのあひるちゃんまで、
全て揃ってる。
眼下には浜離宮庭園と東京湾、レインボーブリッジ。

かなりセレブな空間だ。

部屋に備え付けのフリスクは600円、スニッカーズが500円。
戦争に負けてインフレが起こってるかのような値段設定で
目玉飛び出そう。

とまあ何故私のような一般人が
偽名を使いこんなところにいるのかと言うと、
何の事は無い、ゴージャスなお友達が急遽その部屋をキャンセルすることになったので、勿体無いからとプレゼントされたのだった。
どうもありがとう!
(確かに代金を全額払いながらも泊まらないのは勿体無い空間だった。)


都内に住んでいるのに、
都内の高級ホテルに泊まる事なんて、そうそうない。
貴重で面白い時間だった。


他人になり切るのもなかなか面白いじゃないかと、
彼女の名を借りてチェックインしたのだが、
(テスト前の高校生のように、直前でスラスラと書けるように
住所も電話番号も丸暗記していた。)
フロント嬢の「クレジットカードを見せていただけますか?」
に器用な嘘がつけず、しどろもどろになり、
やすやすと正体をバラしてしまう。

つくづく嘘をつけない性分だ。
長所であり、欠点でもある。

フロント嬢は「そういうことだったのですか」と笑顔になり、
「それは羨ましいですね。私も都内に住んでいますが、そうそう都内のホテルに泊まる機会はないですものね。勉強の為に泊まってみたいとは思うのですが。」と感じが良い。

友人が、スイートルームに泊まるとついてくるコンラッドベアという

ぬいぐるみを楽しみにしていたことを告げると、
「ではそのご友人の分も準備しましょう」と嬉しいサービスを!

コンラッドのサービスには終始感心しっぱなしであった。

特に驚いたサービスは下記の3つだ。
・エレベーターに乗っているとき、
最後に乗ってきた恰幅のいい外人さん2人が入ろうとして、
おそらく定員オーバーだったのだが、ブザーがならないように
設定されていたのだろう、「ドアが閉まらない」
というやや回りくどい表現で定員オーバーを教えていた。
おくゆかしい!

・朝食のフルーツが変わった形状だったので、
なんだろうこの形は...と不思議に思っていたら、
食べる時に分かりました。
ものすごい食べやすい形にカットされていたのですな!
ここは魔法の国なんだ...
と窓の外を見てぼーっとなった。

勿論朝食の豪華ぶりは半端ではない。


・最上階の37階にラウンジがあるようだったので、
まあこういう機会もそうそうあるまい、
いっちょカクテルでも飲むかと夜一人で見に行った。

(旦那はこんなとこまで来て、コンビニで買ったハーゲンダッツを貪り、
靴下を窓枠に置いてテレビ見てパズドラをしていたので
「家にいるのと同じじゃん!」と叱責しておいた。
しかしゴルゴ13、スナイパーごっこにはなかなかのセンスを感じた。
だてにいつもネットゲームで銃かまえてないな...。)

するとそのラウンジはどうやらVIP専用の空間であるらしかった。
当然VIPでもなんでもないので、諦めて帰ろうとしたのだが、
「十時までならよろしいですよ」と席を勧めてくれた。

大きなマグカップに紅茶、クッキーやチョコレートまで持って来てくれた。
ああ、今ここにいるべきじゃない人間が紛れ込んでるよ、
と思いながら、持ってきたクマと紅茶を飲み干した。(いろいろと痛い。)


今まで泊まったホテルで1番ひどかったのは、
名前は伏せるけど福岡のホテルで、
そこのひどさと言ったら、これまた笑っちゃうレベルなんだけど、
(壁当然うすい、冷蔵庫が嵌ってない、時計ぶっ壊れてる。etc)
この部屋との落差が面白〜い!

人生、経験だからいいものも悪いものも色々と経験して
楽しむのって大事かもね。

と、35階のスイートルームから見えていた
浜離宮庭園を翌日のんびり散歩しながら思った。


柳美里著

「まちあわせ」の表紙にイラストが使われました。

(発売:2016.11.8)

 

よろしくお願い致します!