火事

 

家の近所で家事があった。
夕方、用事で外に出たら、
近くの道路に「回送」と表示の出た無人のバスが数台、連なっている。
その先には、車道に斜めに停めたパトカー数台。
そしてその先には、大量の消防車が停まっている。
路上に人はそんなにいるわけではないが、
歩いている人、自分のように立ち止まって先を見ている人
まるで悪夢のような、完全に異質な光景。
妙に静かなのがまた怖い。
この先で何があったんだろう…
見てはいけないようなものがあるのだろうか、とビクビクする。
誰かに事情を聞きたいが、
ミーハー根性丸出しなのもなあ…と思い気が引ける。
でも、路上の人々は、それぞれあるマンションの上階を見ているようだ、と気付き
自分もそちらを見上げる。
ある一室に照明が当てられている。
あの部屋で何かがあったのだろう。
皆写メを撮っている。
数ヶ月前に、母が電話で
「妊婦が家事を見ると、子供にほくろが増えるっていう話があるわよねえ」と
言っていたのを思い出した。
またいつものスピリチュアルな話か…と思ったら、
日本以外の国でも伝わっている、そこそこ有名な話らしい。
まあ、科学的根拠はないので迷信だけど、おそらくそういった光景を見る事によって
妊婦がショックを受けるのがよくないから、そういう話が昔からあるのではないか、という事らしい。
そうだ、クリーニング済みの服を受け取りに出たんだった、と思い出して
クリーニング屋に入る。
前のお客さんと、お店の人がこの件に関して話していたので、
並びながら聞いていると、
おそらく無人だったマンションの一室から火の手が出ているのに
誰かが気付いて通報したらしい。
というのも、中に人がいるのであれば
もっと火が小さいうちに気付いただろうけど、
ベランダから火がボーボーと燃え上がるまで大きくなってしまってから
発見されたから、随分派手に燃えてはいたそうだ。
まあ、一時間程前の出来事で、すっかり消火作業は終わっているらしい。
そんな事が起こっていたとは気付かなかったなあ。
それにしても、路上を埋め尽くすパトカーや消防車、立ち入り禁止の黄色いテープは、普段そうそう見るものじゃないから、ドキドキした。

柳美里著

「まちあわせ」の表紙にイラストが使われました。

(発売:2016.11.8)

 

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